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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)8063号 判決

原告

東幸吉

右訴訟代理人弁護士

澤田和也

被告

株式会社サンライズホーム

右代表者代表取締役

中井克治

右訴訟代理人弁護士

寺内清視

西口徹

千田適

被告

伊集院時光

右訴訟代理人弁護士

岡田尚明

被告

髙杉開発株式会社

右代表者代表取締役

春日健司

右訴訟代理人弁護士

宇津呂雄章

上田隆

森谷昌久

右訴訟復代理人弁護士

宮原民人

被告髙杉開発株式会社補助参加人

株式会社田村建設

右代表者代表取締役

田村文男

右訴訟代理人弁護士

竹内知行

右訴訟復代理人弁護士

住田金夫

主文

一  被告髙杉開発株式会社は、原告に対し、金六五七万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の右被告に対するその余の請求、被告株式会社サンライズホーム、同伊集院時光に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告髙杉開発株式会社に生じた費用を同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告サンライズホーム、同伊集院時光に生じた費用を原告の負担とし、補助参加人に生じた費用は同人の負担する。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金一一四一万八九八五円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら、)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

(概要)

本件は、原告が、被告株式会社サンライズホームから中古建物を購入して入居後、右建物につき構造上の欠陥を発見したとして、右売主のほか、売主に右建物を売った被告伊集院時光及び建物を建築した施工業者である被告髙杉開発株式会社に対し、補修費用等の損害賠償を請求した事案である。

1 本件建物の建築、販売、原告による取得

(一) 被告髙杉開発株式会社(以下「被告髙杉開発」という。)は、住宅の建築、販売、宅地の造成、販売、建築設計施工管理などを主たる営業目的とする株式会社であり、建設業法三条、一五条により建設大臣許可を持つ特定建設業者であるとともに、建築士法二三条に基づき一級建築士事務所を開設するものである。

(二) 被告株式会社サンライズホーム(以下「被告サンライズホーム」という。)は、宅地建物取引及び建築請負を主たる営業目的とする株式会社であり、宅地建物取引業法三条に基づく宅地建物取引業者の許可を受けているものである。

(三) 昭和五三年八月一九日被告髙杉開発は、東大阪市建築主事から建築基準法六条に基づく確認通知を受け、同社従業員である二級建築士中山国樹(以下「中山」という。)をして設計及び工事監理の任にあたらしめ、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及び南隣の建物の設計施工をなし、昭和五四年五月六日本件建物を建築した。

昭和五四年一一月一九日被告髙杉開発は、被告伊集院時光(以下「被告伊集院」という。)に対し、本件建物をその敷地とともに売り渡した。

(四) 被告サンライズホームは、昭和五九年七月二二日までに被告伊集院から本件建物及び敷地を買い受け、同年八月二二日原告に対し、右土地建物を代金一七九〇万円で売り渡した。

2 原告の本件建物入居後の状況と欠陥の発見

原告は、昭和五九年九月五日本件建物に入居して後同月中旬ころ、本件建物北側の勝手口の扉や便所扉等の建具の不具合に気づき、扉枠まわり上端部から錘(おもり)をつけて糸を垂らすと、糸と扉枠まわりとの間に傾きのあることがわかった。

同年一〇月上旬ころ宅地建物取引業協会東大阪支部に補修の斡旋を求め、同月一二日原告及び被告サンライズホーム担当者出席のうえ同支部で同協会相談員による斡旋が行われたが不調に終わった。

昭和六〇年一月一〇日ころ本件敷地擁壁水抜きパイプから晴天にもかかわらず水が流れ出るので不審に思い、排水会所数か所を調べたところ、排水管と会所の接続、排水管と排水管との接続が甘く、また、会所自体の仕上げも不良であるため、生活汚水が排水会所を通して排水管へと円滑に流れず、各接続箇所や会所のひび割れ部分から生活汚水が直接地盤へ排出されて、擁壁の水抜きパイプから流れ出たものと考えられたことから、原告において、各欠陥箇所にモルタルを充填する等の方法で一時的に仮補修した。

原告は、本件建物にはまだ欠陥があるかもしれないと不安になり、各種機関に相談のうえ、建築専門家に本件建物の調査をしてもらったところ、次項記載のごとき建物の構造上の欠陥が発見された。

3 本件建物の欠陥

(一) 構造上の欠陥の意味

原告及び被告サンライズホーム間の本件売買契約では、売買の目的建物の品質、性能、規模など具体的内容を特定するカタログたる設計図書が、簡単な「間取り図」を除いて交付されていない。しかし、右設計図書の交付がなく、売買契約の目的物が「中古物件」であっても、とくに契約時にその排除が明示かつ具体的に合意し特約されていない限り、「相当な安全性能」を有すべきことは契約上当然の内容をなす。そして、「相当な安全性能」とは、当事者間に明示の特約がない場合には、少なくとも建築基準法令が定めている構造基準(建築基準法一条、以下建築基準法を「基準法」、同施行令を「施行令」という。)を充足することを意味する。

(二) 本件建物の構造上の安全性の欠如

本件建物は、基準法が最低限として定める建物構造についての技術基準(法定の構造方法)に反する欠陥があり、相当な安全性能(構造耐力)を有していない。すでに建物自体も不等沈下して傾き、長期荷重(自重、積載荷重など建物に恒常的に作用する力)に耐えかねており、建築基準法令で最低限耐えることが要求される仮定荷重値の短期荷重(台風、地震など一時的に建物に作用する外力)が本件建物に加われば、建物の構造が損壊され、倒壊に至るおそれがある。

(三) 基礎地盤の欠陥

(敷地地盤の現状)

本件建物は生駒山地の西側中腹部に位置し、その敷地は、一部が地山(旧来からの締め固まった、建物荷重に十分耐えうる地盤)、一部が盛り土の造成地となっている。本件建物は、地山上に建てられた鉄筋コンクリート造りの車庫上と、地山及び盛り土部分とにまたがって建てられている。盛り土部分は締め固まりが十分でなく、地山、盛り土にまたがって建物を築造する場合には、建物荷重を基礎各部分にわたって万遍なく地盤に伝達するため、盛り土部分と地山部分の建物荷重に耐えうる力(地耐力)の差を考慮して、敷地地盤の状況に即した基礎構造を選択しなければならない。

(基礎構造の現状)

地山に基礎を持つ鉄筋コンクリート車庫部分については、車庫上に本件建物の一部が立脚して、車庫全体が接地面積の大きい建物基礎となっている。

残りの地山部分と盛り土部分では、布基礎の施工はあるが、木造二階建て建物に通常施工される底盤がなく、底盤下になされるべき割り栗地業もない。砂利まじりの山土の上に、ただ漫然と基礎立ち上がり部分の型枠が組まれ、そこへ生コンクリートが打設されたため、その型枠下部からにじみ出た生コンクリートが流出して、捨てコンクリート類似のコンクリート塊をみせているにすぎない。

(施行令違反の欠陥)

このように、本件建物の地盤は、地山に立脚する部分と、盛土に立脚する部分とに分けられるとともに、車庫という接地面積の大きい基礎と、底盤を持たない接地面積の少ない基礎(地山に立脚する部分と盛り土に立脚するものがある。)の異種の構造方法による基礎が、盛り土と地山に混在していて、それ自体施行令三八条二項の「異種の基礎の併用の禁止」にふれるとともに、地耐力の低い固結していない盛り土部分には底盤なしの接地面積の狭い布基礎があるだけという状態であり、建物荷重と地耐力との相関を検討して敷地地耐力の不足を補い建物荷重を満遍なく地盤に伝達するという基礎構造の目的(施行令三八条一項)に反する建物基礎が施工されている。

(右欠陥による本件建物への影響)

本件建物の基礎が右のような状態であるため、盛り土部分が建物荷重による締め固まり又は圧密のため、本件建物は、盛り土部分の方(北方向)へ大きく傾き不等沈下している。

この不等沈下と後記の建物躯体軸組構造の脆弱さとが相俟って、本来建物荷重を直接受けず変形しないはずの建具まわりが押しつけられて変形し、このため建具の開閉不具合を生じ、現在では単なる建具調整ではこの開閉不良を補修しきれない段階にきている。

(四) 軸組構造の欠陥

(1) 法定斜材の欠落

「床組及び小屋ばり組の隅角には火打材を使用し、小屋組には振れ止めを設けなければならない。」(施行令四六条三項)。

火打材は、床組や小屋ばり組の隅角を固め、建物に加わる地震・台風などの水平力に対する建物の剛性(施行令三六条)を保持させるための斜材で法定の構造方法の一である。

しかるに、本件建物の一階床組(床の構造体)には火打土台(斜材)の施工がなく、小屋ばり組との結合の釘の打ち込みが不足であるうえ、ボルト締めもなく、圧縮力に対して弱くて、有効な火打材の施工があるとはみられない。

また、小屋組(屋根裏の構造体)には振れ止めを設けなければならないとされているが、小屋束と小屋束を結び、その顛倒を防ぐための振れ止めがない。

(2) 有効な筋かいの欠落

施行令四六条一項、四項の定めにより、木造建物には筋かいを持つ軸組を所定の壁長以上で、かつ、つりあいよく配置施工しなければならない。

また、その壁筋かいは、柱または軒桁との結合部に欠き込みを作り木口加工(仕口)により結合した後さらに金物で緊結する必要があるが(施行令四五条三項)、本件建物の筋かいは端部が木口加工されず、筋かい端部を柱または横架材と突き合わせて釘一本でとめてあるにすぎない。これでは有効な筋かいとして機能しない。

(3) 小屋束寸法の不足

小屋組で屋根下地の横架材たる母屋と小屋床面の横架材たる梁をつなぐ短い柱である小屋束の寸法が不足し、不足箇所に充填材が差し込まれているところがある。これでは小屋束と梁とが緊結されているとはいえず、施行令四七条一項に違反する。

(4) 母屋の継手の不良

屋根下地を支える横架材たる母屋の接続部である継手の加工が不良で隙間のみられるところがある。これでは部材と部材との緊結に欠ける。

(5) 垂木の固定不良

小屋組の外周の横架材である軒桁と屋根下地である垂木との接触につき、軒桁に溝をつけるなり、金物を使うなりして垂木と軒桁とを緊結すべきであるのに、漫然と垂木が軒桁上に置かれ、釘打ちされているだけなので、強風により軒があおられるおそれがある。

(6) 不良梁材、不良母屋材の使用

小屋組の床面(小屋梁組)の主要構造部材である小屋梁に梁ぜい(梁の高さ)の二分の一以上にわたる死に節のある木材が使用されており、有効断面が二分の一欠損しているとみるべきである。

また、母屋材に顕著な入り皮(木材の傷害組織)のある材料が使用されているところがあり、材料の安全性(耐力)に欠ける。

(7) 床下を支える床束に防腐剤の塗布がない。

床下を支える短い柱である床束に防腐剤が塗布されていない。床下は場所の性質上湿気を含みやすく、防腐対策として当然防腐剤を塗布すべきである(施行令四二条違反)。

(8) 床下根がらみ貫きの施工がない。

床束相互を結ぶ板材が根がらみ貫きである。床束相互を結ぶことによって床組の剛力を高める機能をもっているが、本件建物にはその施工がなされていない(施行令三六条三項違反)。

(五) 美匠上生活機能上の欠陥

(1) 建物の垂直面水平面の傾き

本件建物の前記基礎の欠陥により、本件建物は北側に傾き、内部の床面や柱などに目視して判然とする傾きまたは歪みを生じている。このため、室内歩行に不快感があり、建具の開閉に不良をもたらすなど美匠上生活機能上の欠陥が生じている。これは、本件建物の構造耐力上主要な部分である柱や梁や床組材などに使用上の支障となる変形が生じていることとなり、施行令三六条三項に違反する。

(2) 排水会所と排水管の接続不良

本件建物外周の排水管と排水管の接続に重ねが不足し、接続がなされていない箇所や排水会所のコンクリート層に隙間の生じている箇所がある。現在原告の手によりモルタルなどで応急修理されているが、長年月には耐ええず、根本的補修として相当な長さの排水管との取替えや会所枡の施工し直しを要する。

4 原告の損害

(一) 補修工費相当額の損害

(欠陥除去に必要な補修の内容)

本件建物には、前項記載のように、基礎と軸組構造体に欠陥がある。これを除去し建築基準法令が定める最低限の安全性を保持させるためには、

① 本件敷地地盤に対応する相当な基礎構造の設置

② 欠陥のある軸組材料の取替え、足りない斜材の補充、緊結に欠ける構造部材の結合部の仕口や継手の木材加工のやり直しまたは金物による補強が必要である。

(補修の方法)

基礎の補修については、本件建物をジャッキで浮揚させて既存基礎(車庫部分を除く。)を撤去し、相当な地業施工のうえ相当な基礎を施工することも技術的には可能であるが、本件建物の位置環境は隣家に隣接し周辺敷地に余裕がないことから隣家や第三者への災害防止という社会的制約から採用不可能である。しかも、ジャッキで建物を浮揚させても軸組構造体を含む建物の水平垂直の傾きが補正されるものではない。軸組構造体の欠陥には、内外装屋根をとりはらい軸組自体からやり直す以外に相当な補修方法がない。そして、このように建物内外装などを撤去し軸組を解体して車庫を除く本件敷地を更地にすれば、第三者災害を防止した基礎の取替施工も可能となる。

したがって、本件のように基礎、軸組という建物構造に根本的な欠陥がある場合には、従前建物をいったん解体し、地業基礎の段階からやり直すほか欠陥除去のための相当な補修方法がない。しかも、従前建物の解体には古文化財の修復の場合のようにできるだけ旧材料を損じず、これを再利用することも可能ではあるが、解体や旧材料保管に莫大な工費と工期を要する。したがって、解体保管にそれほどの工費や工期を要しない材料は再利用することとし、他は新材料を補充して再築しその工費がすべて新材料をもってする再築工費を上回らないような既存建物解体方法をとるのが経済的にみても相当な補修方法である。

(補修金額)

右工事の相当工費は、次のとおりである。

解体費用 八一万八八三二円

再築費用 六二〇万八二八三円

建築確認手続費用 二九万五〇〇〇円

計 七三二万〇〇〇円

(但し、一万円未満切捨て)

(二) レンタル賃料相当額の損害

本件補修には準備期間及び最終点検調整期間を含め工期五か月を要するところ、その期間中原告は本件建物に居住しえず、本件建物近辺に本件建物相当住居と駐車場を賃借せざるをえない。また、本件建物車庫も補修期間中は使用できず、レンタル住宅近辺に駐車場を賃借せざるをえない。

右賃料として、一か月一〇万八五一七円を要し、補修工期五か月間で計五四万二五八五円の賃料の出費を要する。

(三) 宿替え費用

本件建物から右レンタル住居へと、レンタル住居から再び再築建物へと計二回の引っ越しを必要とする。その費用は、梱包費、人夫代その他諸雑費とも一回につき一五万円であり、二回で三〇万円の出費を要する。

(四) 調査鑑定費用

原告が本件各欠陥を発見し、その持つ意味と対策を知るには建築専門家の調査鑑定を必要とした。

この支払い報酬金(調査実費とも)は六〇万円である。

(五) 慰謝料

原告は、待望のマイホームを入手したものの入居当時から建具の不具合、建具枠まわりの傾き、排水の不具合などの欠陥に悩まされ再三被告サンライズホームにその補修を求めるも誠意ある対応を受けられず無視され、やむなく依頼した建築専門家により本件構造欠陥を発見指摘してもらい、それが建物の安全性に関することと知った時の驚きとその後の不安により受けた精神的苦痛は大きい。原告が受けた精神損害は少なくとも一〇〇万円をくだらない。

(六) 弁護士費用

着手金、謝金合計一六五万六四〇〇円である。

右(一)ないし(六)項記載の金額の合計一一四一万八九八五円が原告の損害金額である。

5 被告らの責任

(一) 本件サンライズホームの責任

本件建物の欠陥は民法五七〇条にいう「物の瑕疵」に該当し、本件建物を原告に売り渡した被告サンライズホームは、同法五七〇条、五六六条の瑕疵担保責任により、本件建物の欠陥により被った原告の損害を賠償する責任を負う。

(二) 被告伊集院の責任

本件建物の欠陥が民法五七〇条に該当する「物の瑕疵」であり、敷地地盤に即応しない基礎構造や軸組構造体についての構造上の欠陥については、本件建物新築当初から存したものであることは、その欠陥の部位からして明らかであるので、当然本件建物の前主たる被告サンライズホームが被告伊集院から買い受けた当時にも存しており、同被告は、被告サンライズホームに対して、同条の瑕疵担保責任に基づく損害賠償の責任を負う。

そこで、原告は、同法四二三条の債権者代位権に基づき、原告が被告サンライズホームに対して有する前項の請求権を被保全権利として、同被告が被告伊集院に対して有する右損害賠償請求権を代位して請求する。

(三) 被告高杉開発の責任

本件建物の欠陥は、基礎構造及び軸組構造という木造建築設計施工にあたっての基礎事項について手抜がなされたため生じたものである。かりに、この手抜きが本件建物の設計、工事監理者たる建築士中山の目を逃れて、実際に施工に従事した下請け又は下職によりなされたものであったとしても、これは、中山が本件建物の設計監理者として尽くすべき業務上の注意義務(建築士法一八条参照)、すなわち、下請けなどに建築基準法令を遵守させ、もって建物の構造の安全性を確保し、第三者に損害を被らせないようにする注意義務を怠った結果にほかならず、これにより原告の損害が発生したものであるから、中山の行為は、原告に対する不法行為に該当する。

中山の右注意義務違反は、被告髙杉開発がなす事業の執行として、本件建物の設計施工の職務に従事していた際になされたものであるところ、同被告は、特定建設業者として建設業法上、同法二五条の二五により「施工技術の確保」に務めなければならない注意義務を負担し(当然その施工技術には建築基準法令に適合した設計図書の作成とその実施に必要な専門知識及び応用能力が含まれると解される。)、また、基準法二四条の六により下請けの施工を監督指導すべき注意義務を負担している。したがって、同被告は、本件建物の設計監理者である中山に対し、相当な監督をなし、同人をしてその職責を尽くさせる監督義務を負担していた。また、同被告は、一級建築士事務所開設者でもあり、被用者である建築士中山をして建築士法一八条の職責を尽くさせる義務を負担していた。

これら被告髙杉開発が尽くすべき使用者としての注意義務(監督責任)を怠ったことにより、前記中山の注意義務違反が生じたものである。

したがって、同被告は、原告に対し、民法七一五条の使用者責任により、原告の被った損害を賠償する責任がある。

(四) 被告らの原告に対する損害賠償債務は、それぞれ不真正連帯債務関係にある。

6 よって、原告は、被告サンライズホームに対しては民法五七〇条、五六六条の瑕疵担保責任に基づき、被告伊集院に対しては同法四二三条の債権者代位権に基づき、被告髙杉開発に対しては同法七一五条の使用者責任に基づき、各自金一一四一万八九八五円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一〇月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告サンライズホーム)

1 請求原因1のうち、(二)、(四)は認め、(一)、(三)は知らない。

2 請求原因2のうち、昭和五九年一〇月上旬ころ原告が宅地建物取引業協会東大阪支部へ斡旋を求め、同月一二日原告及び被告サンライズホーム担当者西田出席のうえ斡旋が行われたが不調に終わったことは認め、その余は知らない。

3 請求原因3及び4は、いずれも否認する。

4 請求原因5(一)及び(四)は争う。

被告サンライズホームは、昭和五九年七月一七日原告から本件建物の問い合わせを受け同被告従業員が原告を現地に案内した。原告は、妻とともに本件建物の玄関、浴室、洗面所、台所、二階の各室等を丁寧に検分し、その後も検分を重ねている。

同被告と原告との売買は、中古物件の取引であるから、建物は「現状有姿のまま」取引することが前提であったが、同被告は、原告の要望により、和室畳の入れ替え、壁の塗り替え、襖の張り替え、洗面ユニット新設等種々の内装工事を施した。

我が国の中古住宅は現状有姿のまま売買されるのが実情であり、これは、築後五年も経過すれば、床のきしみ、建具の不具合等多少のひずみ、たわみは付きものといえるからである。また、新築建物であっても、作業をなす職人の技術により数ミリ程度の狂いが生じる。本件建物は、被告伊集院の退去後、原告入居までの約一年間、締め切った状態で管理されていたため、さらに幾分かの狂いが生じ建具の不具合が生じたものとも思われる。いずれにせよ、原告主張の建物の歪みが存するとしても、それは、建物の構造上の欠陥によるものではない。

(被告伊集院)

1 請求原因1(一)ないし(四)は認める。

2 請求原因2は知らない。

3 請求原因3及び4は争う。

4 請求原因5(二)及び(四)は争う。

債権者代位権について、本件では、金銭債権たる損害賠償債権を保全するための行使であるから、債務者たる被告サンライズホームの無資力が要件となるところ、同被告は無資力ではない。

(被告髙杉開発)

1 請求原因1のうち、(一)、(三)は認め、(二)、(四)は知らない。

2 請求原因2は知らない。

3(一) 請求原因3(一)、(二)は否認する。

本件建物は建築基準法令に違反した物件ではない。

建物が不等沈下している事実はなく、倒壊するおそれなど全くない。

(二) 請求原因3(三)は否認する。

基礎構造の施工につき、被告髙杉開発は、構造計画書を添付して建築確認申請をなし、東大阪市建築主事から建築確認を受けたが、右確認申請に際しては構造計画書を添付しており、工事はこれに従って施工した。

本件建物基礎は異種構造基礎ではない。異種構造とは、構造体を構成する材料や構造体の応力の働き方が異なる場合をいうが、本件建物の基礎は、一体のコンクリート造りで同種材料であり、構造体の応力の働き方も同一であるから、異種構造基礎ではない。

本件建物基礎には底盤の施工はないが、転圧された砂礫混じりの造成土の上に、幅五〇センチメートル程度の礫による地固めの転圧を施し、均等に、厚さ平均六ないし一〇センチメートル程度の均しコンクリートを打設したうえに、幅一二センチメートルの布基礎が施工されており、建物の基礎としては底盤施工と何ら変わらない程度の十分な基礎が施されている。

(三) 請求原因3(四)(1)ないし(8)はいずれも否認する。

(四) 請求原因3(五)(1)、(2)はいずれも否認する。

本件建物基礎の不等沈下の事実は認められず、不等沈下を原因とする傾きは存在しない。

4 請求原因4はいずれも否認する。

5 請求原因5(三)及び(四)は争う。

三  補助参加人の主張

補助参加人は、本件建物の敷地を含む大阪府東大阪市上四条町一三五六番一から同番三、一三五八番一、同番二、同番四、一三五九番一、同番三、同番四及び一三六〇番一の各土地を開発して分譲住宅を建設すべく、昭和五二年八月二日所轄官庁東大阪市の開発行為、宅地造成の許可を得て工事に着手し、昭和五三年六月二日宅地造成等規制法九条一項、都市計画法二九条の規定による開発許可の内容に適合しているか否かの完了検査を受け、同月五日適合している旨の検査済証の交付を受けたものであり、右法に則った工事を了した。

その後、補助参加人は、右土地を被告髙杉開発に譲渡し、同被告は、右土地上に本件建物ほかの建物を建築した。

本件建物敷地には擁壁上部にコンクリートブロックが二段存し、盛り土されているようであるが、補助参加人がなした宅地造成工事は右コンクリートブロック下の擁壁部分までであり、当時の地表はコンクリートブロックより下であった。同被告は、本件敷地を買入れ後、コンクリートブロックを二段積み、盛り土をしたものである。

同被告は、原告の主張する瑕疵の内容が宅地造成上の瑕疵に基づくものであり、同被告が敗訴すれば補助参加人に対し不法行為に基づく損害賠償を請求しうることをもって、昭和六一年五月二六日補助参加人に対し訴訟告知した。

しかしながら、土地を購入して地上に建物を建築するものは、その建物の敷地として適合するよう、敷地地盤につき地耐力等調査のうえ、地盤の改良、地盤に適合した建物基礎等の施工をすべきであるから、前記検査合格済みの土地をそのまま売却した補助参加人には、かりに原告主張のごとき瑕疵が存在するとしても、何らの責任もない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1のうち、(一)の事実は、原告と被告伊集院、同髙杉開発との間で争いがなく、(二)の事実は、原告と被告サンライズホーム、同伊集院との間で争いがなく、(三)の事実は、原告と被告髙杉開発、同伊集院との間で争いがなく、(四)の事実は、原告と被告サンライズホーム、同伊集院との間で争いがなく、右(一)ないし(四)の各事実につき原告とその余の各被告との間では、いずれも弁論の全趣旨により認めることができる。

右事実に、〈証拠〉を総合すると、次のとおり認められる。

昭和五二年八月二日補助参加人は、本件建物の敷地を含む土地について、所轄官庁である東大阪市の許可を得て宅地造成工事に着手し、昭和五三年六月二日完了検査を受け、同月五日検査済証の交付を受けて工事を完了し、その後、補助参加人は、右土地を被告髙杉開発に譲渡した。同年八月一九日、同被告は、東大阪市建築主事から、基準法六条に基づく建築確認通知(確認番号第一三九八号)を受け、同社従業員である二級建築士中山をして設計及び工事監理の任にあたらしめ、本件建物他の設計施工をなし、昭和五四年五月六日本件建物を新築した。同年一一月一九日同被告は、被告伊集院に対し、本件建物をその敷地とともに売り渡した。同被告は、本件建物に居住したが、昭和五八年ころ本件建物から転居し、昭和五九年七月二二日ころまでに本件建物とその敷地を被告サンライズホームに売った。

同年八月二二日被告サンライズホームは、原告に、本件建物及び敷地を一七九〇万円で売り渡した。右売買は、建物については「現状有姿のまま」の譲渡であったが、原告の要望により、和室畳の入れ替え、壁の塗り替え、襖の張り替え、洗面ユニット新設等建物内部の改装を同被告が行った。原告の右要望は、売買契約前に原告が本件建物を点検したうえで出されたものであり、右改装が完了したのは、契約後である。売買に際しては、建物の規模、仕様などの具体的内容を特定する設計図書の交付はなかったが、建物の「間取り図」が交付された。所有権移転登記は、直接被告伊集院から原告に経由され、被告サンライズホームへの登記は省略された。

原告は、同年九月五日本件建物に入居したが、同月中旬ころ、本件建物北側の勝手口の扉や便所扉等の建具の不具合に気づき、錘をつけて糸を垂らす等の行為をすることにより、右扉枠に傾きが存することを確認した。そこで、原告は、同年一〇月上旬ころ宅地建物取引業協会東大阪支部へ本件建物の補修の斡旋を求めたところ、同月一二日原告及び被告サンライズホーム担当者出席のうえ同協会相談員による斡旋が行われたが不調に終わった。昭和六〇年一月一〇日ころ原告は、晴天でも、本件敷地擁壁の水抜きパイプから水が流れ出るので、排水会所を調べた。その結果、排水設備の接続不良のため、生活汚水が直接土地に排出されて擁壁の水抜きパイプから流れ出ているものと考え、原告は、右接続不良箇所にモルタルを充填する等の方法で一時的に補修した。さらに、原告は、建築専門家に本件建物の調査を依頼し、本件建物には構造上の欠陥がある旨の報告を受け、本訴に及んだ。

二本件建物の欠陥の有無について

1  判断の基準

前記事実並びに〈証拠〉によれば、本件建物は、昭和五四年五月六日新築され、原告が取得した昭和五九年八月当時で築後五年余を経過した中古住宅であって、その規模は、木造二階建て(一部半地階鉄筋コンクリート造車庫)、敷地面積72.69平方メートル、床面積一階36.32平方メートル、同二階35.88平方メートル、同半地階車庫17.11平方メートル(延べ床面積89.31平方メートル)、高さ7.38メートルの木造小規模住宅であるところ、右規模の建物では、基準法二〇条二項の規定による構造計算によってその構造が安全であることを確かめなければならない建築物にはあたらず、本件建物の構造は構造計算により安全性が確かめられたものではなく、また、本件建物については、建築工事の内容を把握しうる設計図面、仕様書が現存せず、原告が本件建物を買い受けた当時も、売主である被告サンライズホームから右書類を交付されていないものであることが認められる。

そこで、本件建物の構造上の安全性能の有無を判断するについては、最低限の基準を定める建築基準法及び同施行規則に規定する建物構造に関する基準を用い、本件建物規模程度の一般的な小規模木造住宅に通常備わるべき構造上の安全性能が備わっているか否かにより、これを判断するのが相当である。

2  基礎構造について

(一)  (本件建物の基礎構造の現況)

前掲各証拠によれば、以下のとおり認められる。

本件建物は生駒山系の西側裾野の傾斜面を切土造成した宅地造成地内に立地し、南側は隣家が建ち、西側玄関前は道路、北側は傾斜道路、東側は傾斜面の畠となっている。建物の敷地地盤は、東側がもとの地山切土であり、西側の車庫も地山上に建てられ、その余は盛り土である。敷地の北側及び西側の一部は擁壁で囲まれ、西側道路と敷地面とは最大約二メートルの高低差がある。盛り土の層は西側で厚く、西側から東側にかけて徐々に薄くなっていく。

本件建物は、東側は地山切土の上に、西側は一部が地山上に建てられた鉄筋コンクリート造りの車庫上に、一部が盛り土上にと、それぞれまたがって建てられている。

本件建物の基礎は布基礎であるが、底盤はない。基礎幅は一二センチメートル、基礎成は五〇センチメートル(地上高さ三〇センチメートル、屋外地盤面下二〇センチメートル)であり、建物外周直下及び内部間仕切り壁直下の一部に連続して設置されている。

車庫部分では、鉄筋コンクリート造り車庫(鉄筋コンクリートの厚みは上部床版が一八センチメートル、側壁が二一センチメートル。)が延べ一九メートルにわたって布基礎を支えている。東側地山切土部分と盛り土部分では、布基礎に底盤はないが、布基礎下に捨てコンクリート地業がなされている。右地業は、幅約三〇センチメートルから五〇センチメートル、厚さ一五ないし二〇センチメートル程度のもので、形状は不整形である。

(二)  (基礎構造の欠陥の有無)

原告は、右基礎構造が車庫と地山に立脚する基礎と、盛土に立脚する基礎とに分けられ、異なる構造方法による基礎を併用しているから、施行令三八条二項の異種構造併用禁止に触れるとともに、盛り土部分に立脚する基礎は、地盤が地耐力の低い締め固まりの十分でない盛り土であるにもかかわらず、底盤のない接地面積の低い布基礎であることから、建物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下または変形に対して構造耐力上安全な基礎構造であるとはいえず、施行令三八条一項に反すると主張する。

そこで、検討するに、前記事実によれば、本件建物の基礎のうち、地山切土部分(及び地山上に建てられた車庫部分)に立脚する基礎は、基礎の接地圧に対して十分な許容応力(地耐力)を有する地盤に立脚していると推定され、現在の基礎の接地面積で不足はない。そして、本件建物の基礎構造が異種構造の併用というべきか否かはさて置き、仮に異種構造というとしても、盛り土部分の基礎が、地盤の地耐力に見合った相当なものであれば、本件建物の基礎構造は、全体として建物荷重及び外力を安全に地盤に伝え、構造耐力上も安全なものであるといえる。したがって、結局、本件基礎構造に欠陥があるか否かを判断するについては、盛り土部分に立脚する基礎について、地盤の許容応力(地耐力)に見合った接地圧となるよう接地面積が考慮された基礎といえるかどうか検討すれば足りる。そこで、以下この点を検討する。

鑑定の結果によれば、建物の上部荷重を算出して各布基礎の接地圧を算出したところによれば、盛り土部分に立脚する各布基礎の負担する接地圧は、最大10.49、最小4.46(単位:トン/平方メートル、以下「t/m2」と記す。)であり、建物全体の布基礎が負担する接地圧は7.43(t/m2)と算出される。

これに対し、盛り土部分の敷地地盤の地耐力は、スウェーデン式サウディング試験による地盤調査によると、N値二ないし四であり、右値から盛り土部分の長期許容地耐力を算出すると、三ないし四(t/m2)となる(なお、被告髙杉開発は、右地盤の地耐力を施行令九三条により砂質地盤として五(t/m2)と推定できるとするが、右推定値を本件地盤のような盛り土地盤にそのまま適用することには無理があり、前記スウェーデン式サウディング試験による調査結果に照らしても、右値を採用することはできない。)。

したがって、右地盤上の基礎は、地盤の地耐力三ないし四(t/m2)に見合った接地圧を負担するものでなければならないところ、接地圧は最大10.49(t/m2)であり、基礎の接地面積が不足する。

基礎は、建築物の荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下等に対して安全な構造としなければならないので、右のような基礎では構造上の安全性能を欠くといわざるを得ない。これは、本件布基礎に底盤がなく接地面積が不足することに起因する。

なお、被告髙杉開発は、本件基礎は、転圧された砂礫混じりの造成土上に礫による地固めの転圧を施し、均等に厚さ平均六ないし一〇センチメートル程度の均しコンクリートを打設した上に設置されており、底盤が施工された基礎とかわりがない旨主張するが、前記事実によると、布基礎下には、幅約三〇センチメートルから五〇センチメートル、厚さ一五ないし二〇センチメートル程度の形状不整形の捨てコンクリート地業がなされているのみであって、右地業をもって前記基礎の接地圧を支えるに必要な底盤の施工があるものと同視することはできず、右主張は採用することができない。

したがって、本件の基礎は、施行令三八条一項に反し、構造耐力上の安全を欠くものとして欠陥がある。

3  軸組構造について

(一)  火打材、振れ止めについて

(1)イ 火打材は、床組(床の構造体)や小屋組(屋根を支える構造体)の水平材の隅角を固め、建物の水平方向に作用する荷重(水平力)に対して建物の剛性を保たせ、柱と桁や梁の仕口に破損の生じるような無理な力が入らないようにするための斜材である。その効果は接合部分に依存することが多く、接合部にずれが生じたり、緩んだりしないよう緊結しなければならない。

床組及び小屋ばり組の隅角には、火打材の使用が必要である(施行令四六条三項)とともに、構造耐力上主要な部分である継手または仕口は、ボルト締その他の構造方法により、その部分の存在応力を伝えるように緊結しなければならない(施行令四七条一項)。

ロ 小屋組の振り止めは、小屋組のけた行方向の振れを止めるため小屋組と小屋組の間に渡す水平材である。小屋組には、振れ止めを設けることが必要である(施行令四六条三項)。

(2) 〈証拠〉を総合すると、各法定斜材(火打材、振れ止め)の取り付け、仕口接合の状態は次のとおり認められる。

イ 二階床組と小屋組の火打材

二階床組及び小屋組の火打ばりとしては、隅角部に金属製の火打材が取り付けられている。右金属製火打材両端の接合部分には、横架材に固定できるよう中央部にコーチボルト締めの穴とその周囲に釘穴が四個あけられている。

接合状況は、中央部のボルト締めはなされているが、釘打ちが全く欠落しているもの、釘が二本しか打たれていないもの、また、釘止めはしてあるがボルト締めがなされていないものがあり、このような箇所の緊結は不十分である。

ロ 一階床組の火打材

一階床組土台には火打ち土台は全く欠落している。

ハ 小屋組の振れ止め

小屋組に振れ止めは取り付けられていない。

(3) 右のとおり、本件建物には、火打材及び振れ止めの欠落、火打材の接合部の緊結不良の事実が認められ、施行令四六条三項に反する欠陥がある。

(二)  筋かいについて

(1) 筋かいは、柱と柱の間に対角線に入れた斜材で、建物が水平荷重を受けてひし形に変形しないようにするためのものである。

建物物の構造耐力上主要な部分には、使用上の支障となる変形または振動が生じないような剛性及び瞬間的破壊が生じないような靱性をもたすべきであり(施行令三六条三項)、構造耐力上主要な部分である壁、柱及び横架材を木造とした建築物にあっては、すべての方向の水平力に対して安全であるように、各階の張り間方向及びけた行方向に、それぞれ壁を設けまたは筋かいを入れた軸組を釣合い良く配置しなければならない(施行令四六条一項)。すなわち、木造建築物の軸組構造では、地震力や風圧力などの水平荷重は、筋かいや耐力壁によって負担される。

そして、木造建築物の軸組構造については、地震力や風圧力などの水平荷重に対して、最小限必要な、筋かいを入れた軸組の壁量が規定されており(施行令四六条四項)、各階の張り間方向及びけた行方向に配置する壁を設け又は筋かいを入れた軸組は、それぞれの方向につき、軸組の長さに同条項表一の倍率を乗じて得られる長さの合計(建物の有効壁長)が、①その階の床面積に同表二の数値を乗じて得られた数値(地震力に対する軸組の必要壁長)以上で、かつ、②その階の見付面積(張り間方向またはけた行方向の鉛直投影面積)からその階の床面からの高さが1.35メートル以下の部分の見付面積を減じたものに同表三の数値を乗じて得られた数値(風圧力に対する軸組の必要壁長)以上でなければならない。

また、筋かいは、その端部を、柱と梁その他の横架材との仕口に接近して、ボルト、かすがい、くぎその他の金物で緊結しなければならない(施行令四五条三項)。

(2) 筋かいの設置状況、筋かいを入れた軸組の壁量

イ 前掲各証拠を総合すると、本件建物の筋かいは、一〇センチメートル×三センチメートルの大きさの木材で、上下の端部は柱と横架材の角部に突き合わされ、大釘で止めてあるが、釘の本数が少なく緊結不十分であり、金物による補強が必要な状況にあると認められる。

ロ 鑑定の結果によると、本件建物の筋かいを入れた軸組の壁量は、一階張り間方向の有効壁長が、風圧力に対する必要壁長24.69メートルに対して、8.56メートルしかなく、有効壁長が過少であり、一階同方向に対する有効壁量を増設するために、筋かい等による補強が必要な状況にあると認められる。

(3) したがって、本件建物の筋かいは緊結が不十分であり、施行令四五条三項に反するとともに、筋かいを入れた軸組の壁量が不足し、施行令四六条一項、四項に反する欠陥が認められる。

(三)  小屋束について

(1) 小屋束は、屋根下地の横架材である母屋と小屋床面の横架材である小屋ばりをつなぐ垂直材であり、母屋を支持し、屋根からの荷重を負担してこれを小屋ばりへ伝達させる構造耐力上主要な部材である。

そして、構造耐力上主要な部分である継手または仕口は、かすがい打その他の構造方法によりその部分の存在応力を伝えるよう緊結しなければならない(施行令四七条一項)。部材相互間の緊結方法である継手、仕口がまずければ、建物の構造上の安全性は確保できない。

(2) 前掲各証拠を総合すると、次のとおり認められる。

本件建物の小屋束の断面は、八二ミリメートル角の木材であるが、その長さが少し短いまま取り付けられている箇所が数か所あり、下端の三センチメートル程度の空隙に、板が差し込んであるのみで、小屋束が宙に浮いた形になっているものもあり、これについては取り替えを要する状況にある。また、小屋束の上下の緊結は、不十分であり、かすがい等による補強が必要な状況にある。

(3) 以上のとおり、小屋束の仕口不良が認められ、施行令四七条一項に反する欠陥がある。

(四)  母屋の継手について

鑑定の結果によれば、屋根下地を支える横架材たる母屋の接続部である継手に、一部、隙間と段差のみられるところがあり、その緊結に不足がみられ、是正を要する状態にあることが認められるから、右の点に欠陥がある。

(五)  垂木の固定について

垂木は、屋根下地を支え、棟木、母屋、軒けたに架す細長い斜材である。

鑑定の結果によると、本件建物では、母屋と垂木の固定不備の箇所がみられ、補強金物による緊結を要する状態にあることが認められるから、右の点に欠陥がある。

(六)  小屋梁材、母屋材の材質について

原告は、小屋梁に梁ぜい(梁の高さ)の二分の一以上にわたる死に節のある木材が使用され、また、母屋材に顕著な入り皮(木材の傷害組織)のある材料が使用されているところがあり、材料の安全性に欠ける旨主張するが、鑑定の結果によると、小屋梁材、母屋材の入り皮、死に節、節径比(節の径とその節のある材面の幅との百分率)について、若干問題があるものの、構造耐力上の安全性にとくに欠けるものではなく、日本農林規格に適合しない品質の不良材とするにあたらないと認められるから、小屋梁材、母屋材の材質についての原告の主張は採用することができない。

(七)  床束等の防腐処理について

(1) 床束は、床下を支える短い柱である。

床下は湿気を含みやすく、木材等は腐朽しやすいので、柱、筋かい及び土台のうち、地面から一メートル以内の部分には、有効な防腐剤を講じなければならないとされる(施行令四九条二項)。

(2) 鑑定の結果によると、本件建物の床束は防腐処理がなされておらず、また、外壁内の軸組材のうち、柱、筋かいについても、下部地面から一メートル以内の部分の防腐措置はなされていないことが認められる。

したがって、施行令四九条二項に反する欠陥がある。

(八)  根がらみ貫きについて

(1) 根がらみ貫きは、床束相互を水平につなぐ木材である。

建築物の構造耐力上主要な部分には、使用上の支障となる変形または振動が生じないような剛性及び瞬間的破壊が生じないような靱性をもたさねばならないが(施行令三六条三項)、根がらみ貫きは、床束相互を結ぶことによって、一階床面の移動荷重や多少の衝撃荷重を受けて、床束の足元が移動することを防止し、床荷重を安定支持するための床組の補強材である。

(2) 鑑定の結果によると、本件建物の一階床束には、根がらみ貫きは、全く取りつけられていないことが認められるから、施行令三六条三項に反する欠陥が認められる。

4  美匠上生活機能上の欠陥の有無

(一)  建物の垂直面水平面の傾きについて

(1) (不等沈下の有無)

原告は、本件敷地地盤が不等沈下し、そのため本件建物は北側に傾き、建物内部の柱や床面などに傾きや歪みが生じているとして、本件建物には施行令三六条三項に反する欠陥があると主張するので検討する。

前掲各証拠によれば、次のとおり認められる。

本件建物には、垂直面、水平面において、傾きが計測され、垂直方向では、構造耐力上主要な部分である柱から計測されたものについてだけみても、一階では、1.7メートルにつき北方向に、それぞれ七ミリ、八ミリ、四ミリ、五ミリ、八ミリ、一四ミリという数値が計測され、水平方向でも、一階台所で最大高低差マイナス七ミリのたわみが計測されている。また、土台下端の高低差として、マイナス四ミリ、マイナス一三ミリ、マイナス一二ミリ、マイナス七ミリという数値が計測されている。

しかしながら、右計測数値を検討すると、垂直の傾きの計測値には一様性がなく、水平の傾き(高低差)についても計測値に一様性がない。水平の傾きについては、各室における高低差のばらつきが一〇ミリ以上で、傾きも一定方向に定まらず、数ミリ単位の凸凹の状態である。そして、一階と二階それぞれの上下地点の高低差の数値に全く関連性がみられず、土台下端の高低差の計測値も、計測座標点が同じ地点付近の一階床の高低差の計測値と関連性がみられない。

本件建物外壁のクラック(亀裂)についても、浴室外壁のクラックの存在はみられるが、これは材料収縮によるヘアークラックであると推定され、右以外に外壁にクラックは視認できず、本件建物には構造欠陥によるクラックの存在がみられない。

さらに、前認定の基礎構造の欠陥に照らすと、本件建物の敷地地盤のうち盛り土部分に立脚する基礎が沈下する危険性は排除できないが、地山切土上に立脚する建物東側部分及び地山に建てられ車庫上に立脚する建物部分は、地盤が十分にその部分の建物基礎の接地圧を支え得ると考えられ、右部分の沈下は考えられない。

以上のとおりであって、本件建物には、垂直面及び水平面の傾きの存在が認められるが、それは数ミリ単位のものであること基礎の沈下があれば、通常これに連動した数値の計測が予想されるところ、その計測数値には一様性がないばかりか、一階、二階の上下地点の高低差の計測数値に関連性がみられず、土台下端の高低差の計測値も、一階床の高低差の計測値と関連性がみられないこと、建物外壁に構造欠陥による亀裂がみられないこと等の点が指摘できるのであって、これらの事情に照らすと、本件建物の敷地地盤が不等沈下しているとは認められないというべきである。

前掲〈証拠〉(鳥巣次郎作成の調査報告書)には、一階と二階とそれぞれ上下の高低に関連がみられず、傾きが当初からのものなのか、後発的なものなのか推定しがたい旨記載されているが、前記事実に照らすと、むしろ、本件建物の傾きは、当初からのものである可能性が強く、仮に後発的に生じたものとしても、不等沈下によって生じたものということはできない。

(2) よって、本件建物に存する水平面及び垂直面の傾きが不等沈下によって生じたものとはいえず、また、前認定のとおり本件建物には軸組構造の欠陥がみられるが、この欠陥によって本件建物の傾きが生じたことを認めるに足りる証拠もなく、結局、本件建物の傾きが建物の構造欠陥によって生じたものであるということはできない。

そうすると、本件建物の傾きは、建物の構造欠陥によって後発的に生じたものとはいえず、「建築物の構造耐力上の主要な部分には、使用上の支障となるような変形または振動が生じないような剛性及び瞬間的破壊が生じないような靱性をもたすべきものとする」(施行令三六条三項)との規定に反した結果発生したものではないから、これをもって同施行令違反による欠陥であるとの原告の主張は理由がない。

(3) さらに、本件建物に前記傾きの存在すること自体が、建物の欠陥といえるか否かにつき検討するに、証人東佳子は本件建物の傾きの存在により不快感を感じる旨供述するが、前記傾きの数値、傾きの状態等に照らすと、その程度が室内歩行に困難、不快感を伴うほど大きなものとまで認めることはできず、本件建物が物理的ないし機能的減耗を経た中古物件であることをも考慮すると、多少の傾きや建具の不具合は許容範囲内のものといわざるを得ず、前記事実に照らすと、本件建物の傾きが右許容範囲の限度を越えた異常なものと認めることはできない。

以上、検討したところによれば、本件建物の傾きの点をもって、原告が主張する美匠上生活機能上の欠陥があると判断することはできない。

(二)  排水処理施設について

〈証拠〉によると、本件建物には、台所流し台、浴室、洗面所、手洗い、便所及び樋からの排水処理施設が設置されているところ、原告は、本件建物に入居して後、排水会所を調べ、排水ますと地中の排水管との取合部及び排水管接続部分から漏水が発生し、多量の雑排水が地中に排出されていることを確認しており、現在、原告において、不良箇所にモルタルを充填する等の方法で一時的な仮補修をしていること、右接続不良による漏水は、設置工事の不備によるものであって、また、配管勾配の不備も存することが認められる。

したがって、右排水設備の設置工事の不備に起因するとみられる接続不良及び漏水について、補修を要する状態にあると認められ、この点で欠陥がある。

三被告らの責任について

1  被告サンライズホームに対する請求について

原告は、売主の瑕疵担保責任(民法五七〇条、五六六条)を根拠に、後記のとおりの修補費用等を損害として賠償する責任があると主張する。

しかしながら、同条の瑕疵担保責任に基づく損害賠償は、買主が瑕疵がないと信じたことによって被った損害の賠償(いわゆる信頼利益の賠償)を内容とするものであると解すべきところ、原告の主張する損害のうち、これに該当するものはなく、右損害は、いずれも、瑕疵のない履行がなされたなら買主が得たであろう利益(いわゆる履行利益)についてのものである。右履行利益の賠償は、売主の瑕疵担保責任を根拠としてはこれを認めることはできない。

したがって、原告の被告サンライズホームに対する損害賠償請求は、本件の場合、賠償を請求できる損害の主張がなく、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

2  被告伊集院に対する請求について

原告は、債権者代位権に基づき、被告サンライズホームが同伊集院に対し有する損害賠償請求権を代位請求する。

しかしながら、債権者代位権は、金銭債権を保全するため、これを行使する場合は、要件として債務者に資力がなく債務者の一般財産によっては債権の満足が得られないこと、すなわち、債務者の無資力が必要となる。

本件請求は、金銭債権たる損害賠償債権を保全するためのものであるから、債務者たる被告サンライズホームの無資力が要件となるところ、同被告に資力がないことを認めるに足る証拠は存しない。したがって、原告の被告伊集院に対する債権者代位権に基づく請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

3  被告髙杉開発の責任

前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。

本件建物の設計、工事監理者は、被告髙杉開発に勤務する二級建築士の中山であるが、本件建物の基礎構造及び軸組構造の各欠陥は、いずれも本件建物の新築当初から存在し、建築に従事した同被告の下請け業者の施工不良、技能不足によりなされたものである。

ところで、右中山には、本件建物の設計監理を担当する者として、職務上、建築に従事する下請け業者に、建築基準法令を遵守させ、もって建物の構造上の安全性能を確保させて、第三者に損害を被らせないようにする注意義務(建築士法一八条参照)が認められるところ、前記構造欠陥は、いずれも右注意義務を怠った結果生じたものである。原告は、これにより後記のとおりの損害を被ったのであるから、中山の行為は、原告に対する不法行為にあたる。

そして、中山の右義務違反は、被告髙杉開発の業務である本件建物の設計施工監理の職務に従事する際になされたものであることも認められる。

したがって、被告髙杉開発は、原告に対し、民法七一五条の使用者責任に基づき、原告の被った損害を賠償する責任を負う。

4  以上のとおり、被告らのうち被告髙杉開発のみが、本件建物の欠陥により原告の被った損害を賠償する責任を負う。

四原告の損害

1  補修工費相当額の損害について

(一)  補修の内容

本件建物の欠陥は、前記のとおり、基礎と軸組構造にわたり存在する。その補修方法について、原告は、本件建物を一旦解体し、基礎地業の段階からやり直すほかない旨主張する。

しかしながら、〈証拠〉及び鑑定の結果によれば、全面解体しなくとも相当の補修、補強により建物としての機能を維持し、構造耐力上の安全性能を保持させることが可能であると認められるから、原告の主張する建物解体、再築の方法は、修補方法としては採用しない。鑑定の結果によれば、修補は次の方法によることが相当と認められる。

(1) 基礎の補修方法

本件建物の布基礎には底盤がなく、布基礎の底盤に代わる相当の補強工事を実施して基礎の接地面積を拡大して接地圧を減少させ、盛り土地盤の少ない地耐力でも、安全に建物の上部荷重を支持し伝達しうるよう補修、補強する必要がある。

補修方法は、本件建物の在来基礎の下部に耐圧版(鉄筋コンクリート造)を新規に打設し、併せて在来基礎をコンクリートで巻き込み、補強する。(なお、布基礎のうち車庫上部に設置されている布基礎延べ一九メートルに対しては、底盤の必要はなく、補強の必要もない。)

(2) 軸組構造の補修方法

イ 火打材

一階床組の火打ち土台の欠落部分につき、隅角部に火打材を取り付け、両端部を土台と緊結する。小屋組及び二階床組の火打材の緊結不良箇所は、コーチボルト締め及び大釘打ちとし、完全に緊結する。

ロ 筋かい

緊結の十分でない筋かいの仕口につき、上下両端部を、金物で柱及び横架材と緊結する。

一階張り間方向に対する軸組の壁長不足に対しては、壁面に筋かい及び構造用合板を使用し、有効壁量を増設し、施行令四六条四項の規定に適合するよう改修する。

ハ 小屋束

寸法違いの小屋束を取り替えるとともに、小屋束の上下の緊結が十分でないから、母屋とは、かすがいで両面打ちし、下部の梁とは、平金物当て釘打ちまたはかすがい両面打ちして、緊結する。

ニ 母屋の継手

緊結不足箇所を補強金物で緊結する。

ホ 垂木の固定

垂木と母屋との固定不備は、手違いかすがいまたはひねり金物で補強する。

ヘ 床束等の防腐処理

床束の足元及び軸組材(柱、筋かい)の下部に木材防腐剤を塗布する。

ト 根がらみ貫き

根がらみ貫きは、九センチメートル×1.2センチメートルの小幅板を用い、床束の下部足元に縦横に水平に釘打ちして取り付ける。

(3) 排水処理施設の補修方法

建物敷地内の排水管と排水ますの一部敷設替えをする。

(二)  補修金額

鑑定の結果によれば、右補修工事の相当工費は、次のとおりである。

(1) 基礎補修工事費用

三二一万七六〇〇円

(2) 火打材補修工事

一七万八〇〇〇円

(3) 筋かい軸組補修工事

九八万三七〇〇円

(4) 小屋束補修工事

一〇万二〇〇〇円

(5) 母屋補修工事

九万二〇〇〇円

(6) 床束補修工事

六万六二〇〇円

(7) 根がらみ貫き補修工事

六万八〇〇〇円

(8) 排水設備補修工事

一六万二五〇〇円

計 四八七万〇〇〇円

2  レンタル賃料相当額の損害について

原告は、補修工事期間中、本件建物に居住できないから、代替住居及び車庫を賃借する必要があるとして、右賃料相当額を損害として主張する。

しかしながら、〈証拠〉によれば、前記補修工事は、いずれも原告が本件建物に居住して生活しても支障がないよう実施することが可能であると認められるから、レンタル賃料相当額を損害と認めることはできない。

3  宿替え費用について

前記のとおり、工事期間中、代替住居に宿替えする必要は認められないから、宿替え費用を損害と認めることはできない。

4  調査鑑定費用

建築専門家でない一般人が本件のような欠陥を発見し、これを構造欠陥であると判定することは容易でなく、原告が本件建物の欠陥を発見するためには、一級建築士鳥巣次郎ら建築専門家に調査鑑定を依頼することが必要であったと認められる。したがって、原告が右調査鑑定に対し支払ったと認められる報酬金相当額六〇万円は、本件建物の欠陥により原告の被った損害と認めるのが相当である。

5  慰謝料

前記事実によれば、原告が建築専門家に本件建物の調査鑑定を依頼し、その欠陥が建物の構造上の安全性にかかわり、多岐にわたるものであると知って、精神的に衝撃を受けたことがうかがわれ、また、建物の欠陥発見に至るまでの交渉費用、自らなした応急補修費用等の支出を余儀なくされており、これらを総合すると、原告の受けた精神的損害に対する慰謝料としては、五〇万円が相当である。

6  弁護士費用

原告が、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、相当額の報酬の支払いを約していることは、弁論の全趣旨により認められるところ、本件事案の内容、認容額に照らし、被告に対して賠償を求めうる弁護士費用は、六〇万円が相当である。

五結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告髙杉開発に対し、六五七万円及びこれに対する不法行為後であることの明らかな昭和六〇年一〇月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求及び被告サンライズホーム、同伊集院に対する請求は失当であるからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、九四条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官下方元子 裁判官黒岩巳敏 裁判官野路正典は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官下方元子)

別紙物件目録〈省略〉

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